精神障害のなかでも、特に障害年金を受給している人々の多くがうつ病を患っています。うつ病は、誰にでも発症する可能性があり、服薬による治療を行っても長引く傾向があったり、再発しやすい特性を持っています。仕事に支障が出る、または仕事を続けられても一定の制限がある場合、障害年金の受給資格が認められることがあります。しかし、うつ病による障害年金申請には留意すべき点がいくつか存在します。今回は、うつ病による障害年金申請の際の重要なポイント、認定基準、注意すべき事項についてご説明します。
うつ病の障害年金受給が難しいのはなぜ?
うつ病の障害年金受給が困難とされる主な理由は、うつ病の特性と障害年金の受給要件が複雑に絡み合っていることにあります。うつ病は、その症状が個人差が大きく、また日々の変動も激しいため、障害の程度を定量的に評価することが難しい疾患です。このため、障害年金の受給資格を判断する際に必要とされる、症状の持続性や生活への影響度を明確に証明することが困難になりがちです。
また、障害年金の受給には、長期間にわたる医療記録や診断の明確さが求められますが、うつ病の場合、症状の開始時期が不明瞭であったり、治療過程が複雑であったりすることが多いため、これらの条件を満たすことが一層難しくなります。さらに、完全な就労能力の喪失を証明する必要があるため、部分的に働ける状態であれば、それが受給の障壁となることもあります。
これらの要因により、うつ病患者が障害年金の受給資格を得ることは、他の疾患に比べて難しくなっているのが現状です。
以下にて受給が難しい理由や対策について解説していきます。
うつ病だが働いていると難しい
うつ病の症状があるにもかかわらず、働いている方々が障害年金を受けることは一般的に難しいとされています。障害年金の受給資格は、うつ病の症状が日常生活や社会生活にどの程度の影響を及ぼしているかにより、一定の障害等級に認定されることが必要です。働いているという事実は、障害の程度が軽いと見なされる可能性があります。
特に、パートやアルバイトで働いている場合、就労能力があると判断され、2級以上の認定の可能性は低くなります。また、3級相当の方々の中には、傷病が原因で短時間労働のパートやアルバイトでしか就労できない方や、フルタイムで働いているものの、障害者雇用として労働環境に配慮を受けながら就労している方が多いのが現状です。
専門家によれば、うつ病による障害年金の受給が難しい理由として、精神障害の評価が主観的であることや、治療の進行に伴い症状が変動しやすいことが挙げられます。しかし、障害の状態が重く、日常生活に大きな支障をきたす場合は、障害等級に該当する可能性があります。そのため、個々の状況に応じて専門家に相談することが重要となります。
診断書に記載の内容が実際の症状よりも軽く書かれている
障害年金を受給するためには、障害の程度を正確に診断書に記載することが非常に重要です。うつ病の場合、診断書が実際の症状よりも軽く書かれてしまうと、障害年金を受給するための障害等級に該当しないと判断されるリスクが高まります。これは、診断書が障害年金の申請において最も重要な証拠となるからです。医師が記載する症状の重さが実際よりも軽く伝わってしまうと、申請者の日常生活や社会生活における障害の実態が正しく評価されず、結果として適切な支援を受けられない可能性があります。
そのため、医師と十分にコミュニケーションを取り、実際の症状とその影響を的確に診断書に反映させることが必要です。また、障害年金の申請にあたっては、専門家による支援を受けることも一つの方法です。専門家は診断書のチェックだけでなく、申請プロセスを通じて適切なアドバイスを提供することができます。
初診日の特定が難しい
うつ病の障害年金受給においては、初診日の特定が重要な要素となります。初診日は、うつ病の症状が初めて医療機関にて診断された日を指し、障害年金の審査において、病状の進行や治療の経過を判断する基準点となります。しかし、うつ病は徐々に症状が現れることが多く、明確な発症日が特定しにくい病気です。このため、初診日を特定することが困難な場合が多くあります。
初診日が不明確な場合、障害年金の受給資格や障害等級の認定が難しくなることがあります。障害年金の申請には、病状の経過や治療内容を示す医療記録が必要ですが、初診日が不明確だとこれらの資料が十分とは見なされない可能性があります。結果として、うつ病の障害年金受給が困難になることがあるのです。
したがって、うつ病で障害年金を申請する場合は、可能な限り早期に医療機関を受診し、症状の記録を残しておくことが重要です。また、専門家の助言を受けながら申請手続きを進めることが望ましいでしょう。
転院すると障害認定日まで遡るのが難しい
うつ病の障害年金受給に関して、転院は障害認定日までの遡及を難しくする一因となります。障害年金を申請するためには、障害認定日が重要で、これは通常、初診日から1年6ヶ月後とされています。その障害認定日まで遡るためには、その時点で障害年金の等級に該当する症状があったことを診断書で証明することが求められます。
転院を行うと、新たな医療機関での診断や治療が障害認定日まで遡及する証拠として認められにくくなる可能性があります。新しい医療機関では、患者の病歴や治療経過についての詳細な記録が不足していることがあり、これが障害年金の受給資格の証明を難しくします。
また、転院を繰り返すと、継続的な治療を受けることが難しくなり、初診日や治療歴の証明が困難になるため、障害認定日まで遡って請求することが難しくなります。さらに、病院の診療録(カルテ)の保存期間が5年であるため、転院歴があり病歴が5年以上ある方も、認定日請求をすることが難しくなります。
主治医が診断書を書いてくれない場合、転院が唯一の選択肢となることがありますが、これは障害年金の受給に至るまでの時間を延長することにも繋がります。このように、転院は障害年金受給における認定基準を満たすための証明書類の提出を困難にし、結果的に障害年金の受給が難しくなる原因となるのです。このような事情を考慮に入れ、適切な対応を行うことが重要です。
うつ病で障害年金をもらう条件について解説
うつ病による障害年金受給は、厳格な要件を満たす必要があります。特に初診日に国民年金または厚生年金に加入していることは、障害年金申請の基本となるため、これを証明するための適切な医療記録や書類の準備が不可欠です。具体的な条件を分かりやすく説明しましょう。
加入要件(初診日の特定・証明)を満たしている
申請者は初診日に国民年金や厚生年金などの公的年金に加入している必要があります。これは障害年金受給の基本条件となります。
保険料納付要件を満たしている
申請者は初診日までに一定以上の年金保険料を納めている必要があります。保険料の納付は、年金受給の資格を得るための必須条件です。
障害状態該当要件を満たしている
申請者のうつ病の障害程度が、障害年金の認定基準に該当する必要があります。障害の重さや日常生活への影響度が評価され、適切な障害等級が判断されます。
うつ病の障害認定基準は?
うつ病における障害年金の認定基準は、症状の重さと日常生活への影響度に基づいて判断されます。具体的には以下の通りです。
1級の認定基準
1級に分類されるためには、精神障害が日常生活において自立した行動をとることが非常に困難である程度の重さが必要です。これには、ほぼ完全にベッドでの生活を強いられるか、同等以上の重度の障害があることが求められます。
2級の認定基準
2級に認定されるためには、障害が日常生活に著しい制限を加える程度でなければなりません。これは、個人の生活活動において顕著な障害があることを意味します。また、労働が著しい制限を受ける状態であることも必要です。これは、傷病が原因で就労能力が無い状態 若しくは 就労困難な状態を指します。
3級の認定基準
3級の認定を受けるためには、「労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とされています。これは、労働能力が部分的に制限されている状態を指します。うつ病の症状が日常生活にある程度の影響を及ぼしていることも、3級の認定基準となります。障害があるためにフルタイムや重労働が困難で短時間労働や軽作業に限られるか、障害者雇用など特定の職種や条件下でしか働けない状態を指します。
弊社で実際にいただいた相談事例のご紹介 医師から障害年金の申請は難しいと言われた場合
質問
私は、現在うつ病を患っているのですが、障害年金についてかかりつけの医師に相談したところ、「うつ病なら2回以上入院したことがなければ無理だ。」と言われ、診断書を書いてもらえませんでした。
障害年金を申請するのは諦めた方が良いのでしょうか?
答え
医師がお話された障害年金を申請するのに「2回以上の入院が必要」、などという認定基準はどこにも存在しません。
その医師の方は、障害年金についてよくご存じないのだと思います。
その方に限らず、障害年金について理解されていない医師の方は大勢いらっしゃいます。
そのため誤ったアドバイスを医師から受けて申請を諦めていた、という方からよくご相談をいただいております。
また市役所や年金事務所の職員でも、障害年金についての理解が不足し誤った説明をする担当者もいらっしゃいます。
誤ったアドバイスから障害年金を諦めてしまうことの無いよう、まずは専門家である、私たち社会保険労務士にご相談ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
うつ病で障害年金を受給することは、他の疾患に比べて難しいと言えます。しかし、適切な医療証明と専門家の支援により、受給の可能性は存在します。
当センターではうつ病の障害年金のご相談も受けておりますのでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
障害年金Q&A
こちらでは障害年金について主なQ&Aを掲載しています。
それぞれ気になる項目がございましたらご覧になって下さい。
- 障害年金の加算額対象の子の障害ついて
- 配偶者加給年金額対象者の異動について
- 障害年金の受給権者が死亡した場合について
- 障害年金と遺族年金について
- 障害年金の金額について
- パニック障害では障害年金はもらえないと聞いたのですが本当ですか?
- 健康保険の傷病手当金と障害年金の関係について
- 障害年金の受給は会社に知られてしまいますか?
- 傷病が複数あるときの請求について
- 「受診状況等証明書」の取得について
- 障害年金の支払いについて
- 業務上の障害が原因による障害年金について
- 子の加算額対象者が不該当になる場合について
- 配偶者加給年金額対象者が不該当になる場合について
- 初診日ついて
- 障害者手帳と障害者年金との関係
- 障害の状態が変わった時について
- 2つ以上の障害の状態になった時について
- 障害年金の受給期間について
- 保険料の納付要件について
- 障害年金以外にも老齢年金や遺族年金の受給権がある場合ついて
- 20歳前の傷病による障害について(社会保険制度 未加入の場合)
- 障害手当金が受け取れない場合について
- 20歳前の傷病による障害について(厚生年金保険 加入中の場合)
- 就労と障害年金
- 「受診状況等証明」に代わる参考資料について
- 診断書の現症年月日と必要枚数について
- 「年金受給権者現況届」について
- 障害年金の加算額の変更ついて
- 20歳前の傷病による障害等の収入限度額について
- 65歳を過ぎてからの申請について
- 医師から障害年金の申請は難しいと言われた場合
小野 勝俊
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