知的障害で障害年金を受給する方法|受給要件・認定基準・申請方法についてわかりやすく解説します!

知的障害で障害年金を受給する方法|受給要件・認定基準・申請方法についてわかりやすく解説します!

知的障害とは?

知的障害とは知的能力(IQ)が低いことや社会生活への適応能力が低いことで、日常生活ができない・もしくは日常生活に困難を生じている状態のことを言います。生まれつきの障害で発達期(18歳)以下に生じる障害です。

知的障害の主な診断基準は以下の通りです。どれか一つではなくすべてが揃うことで知的障害と認定されます。(認定には医師の診断が必要です)

・知能検査(IQ)によって知的機能の欠陥が認められること(おおよそ70未満)

・実際に社会生活に適応できない・もしくは適応能力が低い状態が認められること

・18歳以下で上記の状態が生じていること

アメリカ精神医学会の「DMS-5」や世界保健機関(WHO)の「ICD-10」によって知的障害の診断基準が詳細に定められていますが、ここでも知的障害は知能検査のIQ測定による数値的な判断だけではなく、思考判断能力、問題解決能力など、医師の臨床所見を加えた診断によるものであると表記されています。

障害年金の受給においても医師の診断は必須です。自己判断による知的障害は障害年金を受給することはできません。

知的障害(精神遅滞) | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)

知的障害で障害年金は受給するための受給要件(受給資格)

・障害年金ってどういう制度?受給するための条件はあるの?

年金は歳を取ったとき・病気やケガや障害・家族の死亡などで生活が困難になったときに備えるための保障制度です。知的障害で障害年金を受給するための受給要件(受給資格) についてご説明いたします。
一般的に公的年金制度には国民年金と厚生年金があります。日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方は、すべて国民年金に加入しています。会社員や公務員の方はさらに厚生年金にも加入することになるので、2つの年金制度に加入します。

主に後天的な病気やケガや家族の死亡などで年金を受け取る場合は、それまで年金を一定期間以上きちんと納めていたかが受給要件となります。しかし、知的障害の場合は診断が(主にうまれつきの障害として)18歳以下に下されることが多いので、年金をきちんと支払っていたかどうかは問われません。
簡単に言うと、年金を納めていなくても障害年金がもらえるということです。

・未成年でも障害年金はもらえるの?

年金制度は働けない方のための保障制度ですから、労働に従事しない年齢の未成年は年金は支給されません。先天性の知的障害の場合、原則として20歳の誕生日の前日が障害認定日になります。20以降から障害年金が支給されます。

・いつから受給できるの?

20歳になったときから障害年金を受給できます。しかし、受給にあたっては障害の程度や所得制限などいくつか複雑な要件がありますので、具体的な受給額や受給時期、申請方法についてはプロに頼んだほうが確実です。


知的障害で障害年金を受給するための認定基準

1.知的障害で障害年金を受給する認定基準

知的障害で障害年金を受給するための認定基準は以下の2つがあります。

1.年齢

2.障害の程度

1の年齢については前章でも述べた通り20歳以上であること。2の障害の程度は以下の通りです。

下の表をご覧いただくとわかりますが、会話による意思の疎通があるかないか、またその程度によって障害の程度が変わります。また、障害の重さのみではなく日常生活や社会生活の実態も加えて総合的に判断されます。(3の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」参照)
この表に当てはまらないからと言って年金受給を諦めるのは早計です。まずはプロに相談してみましょう。

障害の程度状態
1級知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの
2級知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの
3級知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの  ※障害年金は支給されない

・ 知的障害の認定に当たっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断する。

また、知的障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。

・ 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。

・ 就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。

したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したも

のと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。


(引用)日本年金機構|障害認定基準 第8節 精神の障害

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-8.pdf

知能指数とは?

知能指数(IQ=Intelligence Quotient)とは、知能の水準あるいは発達の程度を測定した検査の結果を表す数値。(知能の程度を数値化したもの)です。知能検査によって得られる測定値によって指数が定められますが、そもそも「知能」にはさまざまな定義があり、「知能検査」も1種類ではありません。
そのため知能指数(IQ)も、ひとつの側面から見た結果にすぎず、絶対的なものではないということを理解しておく必要があります。

また、単に学習で覚えた知識や学力ではなく、様々な状況や環境に合理的に対処していくための土台となる能力に対する指数であるため、学力とも異なった見方をされます。

そのうえで、ある程度客観的に知能の程度を測る必要があるときは、知能指数が用いられることがあります。

知能指数の算出方法

知能指数の算出方法は大きく分けて2種類あります。

・年齢算出型IQ

・偏差値型IQ

の2種類です。以下でそれぞれの算出方法をご説明します。

【年齢算出型IQ】

年齢算出型IQ=精神年齢÷生活年齢(実年齢)×100


精神年齢に対して実年齢の数値よりどれだけ発達しているか/遅滞しているかを示す基準として算出されます。主に就学時に遅滞児を発見する目的で開発されましたが、幼少期の精神年齢は個人によって差が激しく、場合によっては極端に高い知能指数(IQ200など)が出てしまうことがあるため現在ではこの算出法が用いられることは少なくなりました。「従来の知能指数(IQ)」とも呼ばれています。

【偏差値型IQ(DIQ)】

偏差値型IQは正規分布を利用して算出します。

「偏差」とは平均値からの差です。偏差値を見ることで、集団の中でその人の数値が平均からどれだけ離れているかを判断することができます。

主に現在はこちらの「偏差値型IQ(DIQ)」が主流となっています。

少し難しいですが、以下の算出方法で算出されます。

偏差値型IQ=(個人の得点-平均点)÷標準偏差×一定値(*)+100

※15分の1(ウェクスラー式)または16分の1(ビネー式)で異なる

偏差値型IQでは、知能指数の分布はIQ100を中心としてきれいな山形に収まります。IQの平均値は100であり、IQ85~IQ115の間に約68%の人が収まり、IQ70~IQ130の間に約95%の人が収まります。


上記の2種類の算出方法で示されたIQは、数値の持つ意味が全く異なるために比較することはできません。

知能指数の認定基準

知的障害の知能検査としてしばしば、WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)知能検査が用いられています。WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)知能検査は、ウェクスラー式知能検査の日本版です。16歳0カ月~90歳11カ月を適用範囲として、

・全検査IQ(FSIQ)

・言語理解指標(VCI)

・知覚推理指標(PRI)

・ワーキングメモリー指標(WMI)

・処理速度指標(PSI)

の5つの合成得点を算出します。

この検査によって、知的能力や処理能力、記憶、言語理解能力などを測定できるため、発達障害や知的障害の診断、ないしサポートに広く用いられています。知的障害や発達障害を発見できるというだけでなく、どんな能力が不得意でコミュニケーションの齟齬が起こっているのかなど、発達の凸凹や得意・不得意を知ることができるため、幅広い分野で活用されています。

WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)知能検査をはじめとした知能検査によって得られた得点を次の表に当てはめると、集団の中でのその人の知能レベルを知ることができます。

得点分類全体の割合
130以上きわめて優秀全体の2.2%
120~129優秀全体の6.7%
110~119平均の上全体の16.1%
90~109平均全体の50.0%
80~89平均の下全体の16.1%
70~79境界知能全体の6.7%
69以下知的障害全体の2.2%

※数値の割合や分類は年代や方式によって異なる場合があります。

知的障害の定義としては、おおよそ知能指数70(∓5)未満が当てはまります。ただ知的障害の診断には、知能指数だけでなく
・実際に社会生活に適応できない・もしくは適応能力が低い状態が認められること

・18歳以下で上記の状態が生じていること(事故の後遺症や認知症は知的障害としては扱われない)

なども含まれるため、慎重な判断が必要です。

2.軽度知的障害でも障害年金はもらえる?

療育手帳で「軽度知的障害」と区分されている場合、障害年金を受給できないと思われている方が多いようですが、結論から申し上げますと軽度知的障害でも年金を受給できる場合があります。

障害年金における等級判定は、「日常生活が行えるかどうか」に大きな基準が置かれています。一方で療育手帳の障害判定は「知能指数(IQ)」によるものです。

IQがそれほど低くなかったとしても、日常生活に援助を必要としていて、会話による意思の疎通に困難が認められる場合は障害年金が受給できる可能性があるので注意が必要です。分からない場合は早めにプロに相談しましょう。


知的障害については、障害の等級認定がかなり複雑であり、総合的に判断されることがポイントです。就労しているからと言って自己判断で諦めたり、軽度知的障害だからといって申請しないのは早計と言えます。
早めにプロに相談したうえで、認定医の判断を仰ぎましょう。

知的障害で障害年金はいくらもらえるの?

知的障害で支給される障害年金の額は、以下の通りです。

障害基礎年金の年金額(令和5年4月分から)

1級

67歳以下の方
(昭和31年4月2日以後生まれ)
993,750円 + 子の加算額※
68歳以上の方(昭和31年4月1日以前生まれ)990,750円 + 子の加算額※

2級

67歳以下の方
(昭和31年4月2日以後生まれ)
795,000円 + 子の加算額※
68歳以上の方(昭和31年4月1日以前生まれ)792,600円 + 子の加算額※

子の加算額

2人まで1人につき 228,700円
3人目以降1人につき 76,200円

※子の加算額はその方に生計を維持されている子がいるときに加算されます。
なお、子とは18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子です。

知的障害で障害年金を請求する場合の申請方法と必要書類



知的障害で障害年金を請求する場合の具体的な申請の手順についてご説明します。

大まかな流れは次の通りです。


請求申請の大まかな流れ

1.医師の診断

2.「病歴・就労状況など申請書」を作成

3.必要書類の作成

4.申請

必要書類

  • 年金請求書
  • 診断書
  • 身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の写し
  • 受診状況等証明書
  • 受診状況等証明書が添付できない申立書
  • 初診日証明書類の利用希望申立書
  • 病歴・就労状況等申立書

障害年金を請求できるのは「障害認定日」以降となります。

知的障害の場合、原則として障害認定日は「20歳の誕生日の前日」となりますから、障害年金は20歳の誕生日以降に申請します。

「病歴・就労状況など申請書」は診断が出る前に作成しても構いません。
日常生活についての困りごとや病歴、制限を受けている状況をわかりやすくまとめることが大切です。ご不明な点があれば早めにプロに相談しましょう。
療育手帳があれば申請に必要となることがありますので申請の際に提出しましょう。いずれにしろ早めに社会保険労務士に相談し、サポートを受けられることをおすすめします。


知的障害で障害基礎年金2級を受給した事例

当センターにおいて知的障害で障害年金を受給した事例をご紹介致します。
Sさんは幼少期に発達の遅れが見られ、中度の知的障害と診断されました。日常生活も家族の援助が必要と判断され、障害基礎年金2級を受給するに至りました。

知的障害で障害基礎年金2級を受給した事例(20代 男性) – 多摩・八王子障害年金相談センター (tamasapo-office.com)

まとめ


いかがでしたでしょうか。知的障害で障害年金を受給する場合、大切なのは認定基準がかなり総合的に判断されるということです。知能指数だけではなく、日常生活を送れるかどうか・意思の疎通ができるかどうかが重要な基準となります。
そのような点を医師にしっかりと診断してもらったうえで、受給できる場合は早急に手続きを行いましょう。

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小野 勝俊

初めまして、多摩・八王子障害年金相談センターを運営する「多摩ヒューマンサポート社会保険労務士事務所」の代表 小野勝俊と申します。 当事務所に相談することで、お客様の悩みが少しでも解決するよう私が精一杯サポート致します。 障害年金を受給し、新しい未来が築くことができるように一緒に頑張っていきましょう。