呼吸器疾患とは?
呼吸器疾患とは、大きく分けて鼻、のど、気管、肺からなる「呼吸に関する器官(臓器)」に起こる疾患のことです。代表的な呼吸器疾患には気管支喘息・かぜ・気管支炎・肺がんなどがあります。軽いかぜ程度のものから重い疾患まで、呼吸器疾患には幅広い疾患があり、症状が重くなると働けないということも少なくありません。そんな呼吸器疾患にかかってしまったときの生活をサポートする手立てのひとつとして、障害年金があります。今回は、障害年金の中でも呼吸器疾患について、障害年金の受給事例を含めながらお伝えしていきます。
呼吸器疾患で障害年金を受給するための条件とは?
呼吸器疾患にかかってしまった場合、障害年金を受給することはできるのでしょうか。また、その基準はどのように定められているのでしょうか。
呼吸器疾患における障害年金の認定基準についてお伝えしていきます。
呼吸器疾患の障害認定基準
呼吸器疾患による障害については、日本年金機構が発表している「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」に次のように定められています。
1級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 | 身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
障害認定基準を読むと少し表現が難しいですね。1級の「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」とは「他人の介助なしにはほとんど自分のことができない」という意味です。病院内の生活で言えば活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものです。つまり、ベッドや家の中で安静にしているかゆっくりと静かな動作しかできない状態のことを指しています。2級の基準にある「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」というのも、多少身の回りのことができる程度であって、労働はできない状態を意味しています。具体的な障害の認定は、疾患によって認定基準が定められています。
第2 障害認定に当たっての基本的事項|日本年金機構
呼吸器疾患の認定要領
呼吸器疾患の認定は、大きく分けて4つに区分されています。
肺結核・じん肺・呼吸不全・慢性気管支喘息(※カテゴリーとしては呼吸不全に含まれるが基準が明示されている)です。
肺結核
肺結核(そのもの)による障害の程度は、病状判定および機能判定により認定されます。
また、肺結核の症状による障害の程度は、
・自覚症状
・他覚所見
・検査成績(胸部X線所見、動脈血ガス分析値等)
・排菌状態(喀痰等の塗抹、培養検査等)
・一般状態
・治療及び病状の経過
・年齢
・合併症の有無及び程度
・具体的な日常生活状況等
により総合的に認定されます。
病状判定により各等級に相当すると認められるものを例示すると次の通りとなります。かなり医療に詳しくないと理解が難しい言葉が並んでいますので、患者さまやそのご家族として大切なことは、治療方法や薬剤を含めて信頼できる医師に相談し、治療の経過を資料として残しておくことです。また、資料をなくしてしまったとしても悲観せず、障害年金センターなどプロにご相談下さい。
障害の程度 | 障害の状況 |
1級 | 認定の時期前6月以内に常時排菌があり、胸部X線所見が日本結核病学会病型分類(以下「学会分類」という。)のI型(広汎空洞型)又はII型(非広汎空洞型)、III型(不安定非空洞型)で病巣の拡がりが3(大)であるもので、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の介護を必要とするもの |
2級 | 1.認定の時期前6カ月以内に排菌がなく、学会分類のⅠ型若しくはⅡ型又はⅢ型で病巣の拡がりが3(大)であるあるもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの2.認定の時期前6カ月以内に排菌があり、学会分類のⅢ型で病巣の拡がりが1(小)又は2(中)であるもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの |
3級 | 1.認定の時期前6月以内に排菌がなく、学会分類のI型若しくはII型又はIII型で、積極的な抗結核薬による化学療法を施行しているもので、かつ、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とするもの2.認定の時期前6カ月以内に排菌があり、学会分類のⅣ型であるもので、かつ、労働に制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とするもの |
肺結核に他の結核または疾病が合併している場合は、その合併症の状態(治療法や病状・経過)を勘案したうえで総合的に判断されます。
じん肺
じん肺(そのもの)による障害の程度は、病状判定および機能判定により認定されます。
また、じん肺の病状による障害の程度は、
・胸部X線所見
・呼吸不全の程度
・合併症の有無及び程度
・具体的な日常生活状況
等により総合的に認定されます。
病状判定により各等級に相当すると認められるものを例示すると次の通りとなります。
等級の程度 | 障害の状況 |
1級 | 胸部X線所見がじん肺法の分類の第4型であり、大陰影の大きさが1側の肺野の1/3以上のもので、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の介護を必要とするもの |
2級 | 胸部X線所見がじん肺法の分類の第4型であり、大陰影の大きさが1側の肺野の1/3以上のもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの |
3級 | 胸部X線所見がじん肺法の分類の第3型のもので、かつ、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とするもの |
呼吸不全
呼吸不全とは、原因のいかんを問わず動脈血ガス分析値(動脈血に溶け込んでいる窒素や酸素、二酸化炭素を測定値)が異常で、そのために生体が正常な機能を営み得なくなった状態をいいます。
認定の対象となる病態は主に慢性呼吸不全です。慢性呼吸不全を生じる疾患は、
・閉塞性換気障害(肺気腫、気管支喘息、慢性気管支炎等)
・拘束性換気障害(間質性肺炎、肺結核後遺症、じん肺等)
・心血管系異常
・神経・筋疾患
・中枢神経系異常 等…
多岐にわたり、肺疾患のみが対象疾患ではありません。
呼吸不全の主要な症状としては、咳、痰、喘鳴、胸痛、労作時の息切れなどの自覚症状をはじめ、チアノーゼや呼吸促拍(息が詰まって苦しくなること)、低酸素血症などの他覚所見があります。
これらを、動脈血ガス分析(A表)や予測肺活量1秒率(B表)、一般状態区分などから判断します。
A表:動脈血ガス分析値
動脈血ガス分析というのは、動脈血に溶け込んでいる窒素や酸素、二酸化炭素を測定する検査です。呼吸不全の病状判定に際しては、特に動脈血O₂(酸素)分圧値が重視されます。以下は症状の判定表です。
区分 | 検査項目 | 単位 | 軽度異常 | 中程度異常 | 高度異常 |
1 | 動脈血O₂分圧 | Torr | 70~61 | 60~56 | 55以下 |
2 | 動脈血CO₂分圧 | Torr | 46~50 | 51~59 | 60以上 |
※安静時に測定します。
※病状判定に際しては、動脈血O₂(酸素)分圧値が重視されます。
B表:予測肺活量1秒率
予測肺活量1秒率とは、努力肺活量(胸いっぱいに空気を吸ってから可能な限り一気に吐き出す量)において、最初の1秒間に吐くことができた空気の量の割合を指します。70%以上を正常とします。気道が狭くなっていないかを簡単に見つける指標です。
検査項目 | 単位 | 軽度異常 | 中程度異常 | 高度異常 |
予測肺活量1秒率 | % | 40~31 | 30~21 | 20以下 |
このような呼吸不全による障害の程度を一般状態区分(一般的な言葉で表した状態の区分表)で示した表が次です。
一般状態区分表
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの…例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
上記の3つの要素などを考慮したうえで、呼吸不全による各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりとなります。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 前記(4)のA表及びB表の検査成績が高度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | 前記(4)のA表及びB表の検査成績が中等度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの |
3級 | 前記(4)のA表及びB表の検査成績が軽度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの |
なお、呼吸不全の障害判定は、A表の動脈血ガス分析値が優先されます。しかしながらそのほかの検査も参考とし、総合的に判断されます。
慢性気管支喘息
慢性気管支喘息はカテゴリとしては呼吸不全に含まれますが、具体的に障害の等級が定められているため本章では独立してご紹介します。
慢性気管支喘息については、
・症状が安定している時期においての症状の程度
・使用する薬剤
・酸素療法の有無
・検査所見
・具体的な日常生活状況
などを把握して、総合的に判断されます。
気管支喘息の障害等級認定基準は以下のとおりです。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 最大限の薬物療法を行っても発作強度が大発作となり、無症状の期間がなく一般状態区分表のオに該当する場合であって、予測肺活量1秒率が高度異常(測定不能を含む)、かつ、動脈血ガス分析値が高度異常で常に在宅酸素療法を必要とするもの |
2級 | 呼吸困難を常に認める。常時とは限らないが、酸素療法を必要とし、一般状態区分表のエ又はウに該当する場合であって、プレドニゾロンに換算して1日10㎎相当以上の連用、又は5㎎相当以上の連用と吸入ステロイド高用量の連用を必要とするもの |
3級 | 喘鳴や呼吸困難を週1回以上認める。非継続的なステロイド薬の使用を必要とする場合があり、一般状態区分表のウ又はイに該当する場合であって、吸入ステロイド中用量以上及び長期管理薬を追加薬として2剤以上の連用を必要とし、かつ、短時間作用性吸入β₂刺激薬頓用を少なくとも週に1回以上必要とするもの |
(注1)上記表中の症状は、的確な喘息治療を行い、なおも、その症状を示すものであること。また、全国的に見て、喘息の治療が必ずしも専門医(呼吸器内科等)が行っているとは限らず、また、必ずしも「喘息予防・管理ガイドライン2009(
JGL2009)」に基づく治療を受けているとは限らないことに留意が必要。
(注2)
喘息は疾患の性質上、肺機能や血液ガスだけで重症度を弁別することには無理がある。このため、臨床症状、治療内容を含めて総合的に判定する必要がある。
(注3)
「喘息+肺気腫(COPD)」あるいは、「喘息+肺線維症」については、呼吸不全の基準で認定する。
気管支喘息で障害基礎年金2級を受給した事例
実際に気管支喘息で障害年金を受給した事例をご紹介します。30代後半から徐々に呼吸が浅くなり、呼吸が苦しくなることから階段を上ることにも苦労されていた方の事例です。
気管支喘息で障害基礎年金2級を受給した事例(40代 女性) – 多摩・八王子障害年金相談センター (tamasapo-office.com)
突発性間質性肺炎で障害厚生年金2級を受給した事例
仕事中に突然息苦しさを感じ、突発性間質性肺炎と診断された方の事例です。24時間の在宅酸素療法を行うため退職を余儀なくされ、障害年金2級の受給に至りました。
突発性間質性肺炎で障害厚生年金2級を受給した事例(30代 女性) – 多摩・八王子障害年金相談センター (tamasapo-office.com)
呼吸器疾患で障害年金を受給するための注意点
呼吸器疾患で障害年金を受給する基準は、書面を見てもかなり複雑で理解するのが難しいと思われる方も少なくありません。さらに病状の判断には医師の診断が必要で、患者さんが判断することができない面も多くあります。
ここでは呼吸器疾患で障害年金を受給するための注意点とポイントをお伝えしてまいります。
早期に受診する
まずは医師に相談し、病状をしっかりと伝え、相応の治療と検査を受けることが大切です。その際、初診日や受診した際の領収書など資料をなるべく残しておきましょう。
自覚症状や日常生活を具体的に医師に伝える
息切れの度合いや咳、痰の状況をなるべく詳細に医師に伝えることが大切です。我慢せずにしっかりと医師に伝えましょう。検査すれば客観的な指標はわかってしまいますので、大げさに言うことは適切ではありません。医師との信頼関係の中で、何ができて何ができないかを具体的に伝えることが大切です。
仕事への影響を医師に伝える
仕事への影響もしっかりと伝えましょう。障害年金は病気や障害、けがにより働くことができない方へのサポートです。呼吸器疾患が理由で配置転換を余儀なくされたり、治療の関係で退職しなければならなかった場合など、仕事との関係は重視されます。目に見える異動や退職・転職などがなくても、同僚へ気を遣わせてしまう、咳が理由で会議に出られないなどの支障があれば医師に伝えましょう。
まとめ
呼吸器疾患における障害年金の受給基準についてお伝えしてまいりました。
資料は医療系の知識が必要となるため、一般の方が理解するのはとても大変だと思います。一方で、検査結果などからだいたいの認定級を推定できる方もいらっしゃると思います。いずれにせよ、医師の診断と検査結果、日常生活における自覚症状など、さまざまな認定基準を精査できるプロに早期に頼むことが大切です。
わからないことはお近くの社会保険労務士や、年金相談センターにご相談ください。
小野 勝俊
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